黒部川のイワナに会う

LIFE

 二人の装備重量は45kgほどになってしまった。これを65Lと50Lのザックに分けて背負わねばならない。当然私のほうが50Lである。

 これが打ち合わせも配慮もなく決まっているのは、私が仲間内では独裁者的に振舞っているからでも、あるいは5歳年下のAKが気遣ってくれたから、でもない。

 当然の「ハンディ」なのだ。

 ゴルフに「ハンディ」なるものがある。これがあるからこそ力量が違いすぎる者たちでも一緒にラウンドできるわけだ。

 登山界にもこれは存在する・・・・ はずだった と思う。

 それからすると、50対65。重量にすると20kg対25kg位なのだが。これは実際のハンディよりかなり小さい。

 15kg対30kg あってもどうだか・・・・・・・。

 それ位彼奴AKと私の力量はケタが違いすぎるのだ。

 彼奴の山での脚力はサイボーグ009並みである。

 登山地図にはコースタイムが書かれている。今から25年前ほどは、私だってコースタイムが60分なら50分位で歩いていたものである。勿論現在では脚力は落ちているだろう。しかし中高年登山者が圧倒的に多くなってきているからコースタイムが以前よりだいぶ甘く書かれているのだ。

 だから昔の60分コースは80分になっている。昔より10分遅くなっていても新しい標準より逆に20分も早く着く。という錯覚現象もおこるわけだ。

 事実。今回は富山市の折立登山口から、太郎平小屋という稜線にある小屋までが最初の登りとなる。標高差は約1000m。このコースタイムは5時間と書いてある。

 私は雨の中、20kgも背負って3時間40分で着いた。上出来である。

 しかしAKは3時間余で登ってしまうのだ。

 「先にいって小屋でビールでも飲んで待っていてくれ」といってあったが・・・。
 

 「コウダさん遅すぎて 体冷えちゃってビールなんか飲めないから 熱燗沸かして飲んでたよ」なんて言われてしまう始末。

 ハンディつけても勝負にならない。まさにサイボーグである。

 初日の予定は、これから黒部川の源流に向かい、薬師沢出合から沢に入り野営の予定であった。
 厳密には、国立公園内では野営はしてはいけない。焚き火はご法度!その他ダメージを与えない緊急野営(ビバーク)扱いと黙認してもらおう。

 出合から300m上流にテントを張った。(対岸にしか余地がなかったのが気がかりだったが・・)

 朝からの雨も量的には大した事なくて、実際川の水量もそれほど多くは見えなかった。

 夕食の下ごしらえをしてから、早速竿を取り出す。50mほどで難なく3匹のイワナが釣れた。
 勿論今回はリリース。黒部イワナの顔を見るだけの釣りである。地元や東北系のニッコウイワナとはだいぶ模様が違うね。

  「黒部イワナに会いに行く」

 これで目標のひとつが達成された。

 雨が降り出してきた。慌ててテントに帰るとAKは熱燗クラって寝ていた。
 それではと、こちらもテント内で飲みながら夕食を作る。

 おかずは、自家製野菜 キュウリの漬物 ツルムラサキ・オクラ・笹かま入りの中華スープ。そして自家製ナスとピーマン入りマーボ茄子である。

 飲んで 食べて 一息つくと、なにやら 川音が強くなっているような・・・・・。

 テントから首を出して愕然とする。雨が強めになって僅か30分。もう川は50cm位増水していた。

 ヤバイなあ。

 ブナ林に被われた東北への沢旅が多かったから油断した。これが黒部川の怖さだ。

 「おい起きろ、撤収するぞ」
 「えっ」びっくりするAK。

 それからが早い二人。5分で準備完了。しかし川はさらに増水しておりテントのあった位置も水に漬かりはじめていた。

 後10分遅ければ渡渉できなかっただろう。(実際AK流されそうになっていたし)

 

 出合にある薬師沢小屋に何食わぬ顔で投宿した時には、日が暮れ落ちようとしており足元の黒部川は轟音と共に激しく流れていた。

コメント

  1. くわでん より:

    あ~あ~あ~あ~・・・。
    やっぱりこういう展開になるんだ~・・・。
    で、続きは!?
    も、無事に帰ってきてるから、オキラクに書き込みさせていただきますよ。

  2. とっさ より:

    山釣り師の憧れ、黒部岩魚!私も手にしたいものです。

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